Microbiome in health and disease
マイクロバイオーム

敵か味方か?

ワークフロー全体の概要を見る
マイクロバイオーム研究を全体的にカバーするワークフローについて確認する

ヒトの体内では細菌、古細菌、真菌、原生生物、およびウイルスなど何兆個もの微生物がコロニーを形成しています。これらの生命体は総称してマイクロバイオータと呼ばれ、その数はヒトの細胞数と比較して少なくても同数、多ければ10倍と推定されます。ヒトのマイクロバイオータは信じられないほどに多様です。多くのさまざまな組織、器官、部位特異的、および体液に微生物群が存在します。このうち、もっとも特徴的でよく知られている2つの微生物群である口腔および腸マイクロバイオータは、ホメオスタシスと発症機序に重要であることが明らかになっています。

口腔マイクロバイオータは、通常の環境下で疾患の発症(虫歯や歯周疾患)を促進するという点で他の領域特異的なマイクロバイオータとは異なります。したがって、口腔ケアの習慣が必要なのです。一方で、口腔マイクロバイオータが存在することで病原体によるコロニーの形成が間接的に阻害されます。常在するいくつかの種が、直接的な抗病原体効果を有することも明らかになっています(1)。口腔マイクロバイオータは、700種類以上の微生物で構成されます。当然のことながら、口腔マイクロバイオータの研究でマイクロバイオームの特性解析を行うには困難が伴います(2)。さらに、口腔は食事、呼吸、または社会的接触(キスなど)を通して常に外部環境や微生物環境にさらされています(1)。

Microbial DNA
口腔マイクロバイオームの最初のメタゲノムプロファイルは、口腔疾患に着目したものでした。これにより、歯垢や虫歯には独特で複雑な複数種の微生物群が存在することが明らかになっています。

こうした複雑さが、細菌培養など従来的な手法を用いて個々の病原体や病態機序を解明することを非常に難しくしています。しかし、次世代シークエンシング技術の登場により、現在ではメタゲノミクスを用いてすべての微生物群を同時に解析することが可能となっています(3)。口腔マイクロバイオームの最初のメタゲノムプロファイルは、口腔疾患に着目したものでした。歯垢や虫歯には独特で複雑な複数種の微生物群が存在すること、また、これらの症状がある人とない人ではマイクロバイオータ組成に明確な差異があることが明らかになっています(3, 4)。後者に関してはさらにメタゲノミクスを用いた研究が進められ、歯周疾患やその他の炎症性疾患患者に特徴的な細菌プロファイルの生成に役立てられています(2)。特に当てはまるのが、口腔炎症と循環器疾患リスクの増加との関連性です(5)。実際、アテローム性プラークに存在する細菌が口腔内にも同様の比率で存在することが、メタゲノミクス解析によって確認されています。これは、両者の潜在的な関連性と、循環器疾患のバイオマーカーとして口腔マイクロバイオームを使用できる可能性を示唆しています(6)。


腸マイクロバイオータ

腸マイクロバイオータは、ヒトの体内に常在するもっともよく知られた微生物群です。一般的に、腸マイクロバイオータを構成する微生物は門レベルではおおむね2種類にすぎませんが、分類階級が下位になるほど大きく多様性を増していきます。2016年の時点で1,000万個以上の遺伝子が腸マイクロバイオームを構成するものとして特定、および登録されています(7)。口腔マイクロバイオータの一部が外部との接触によって形成されるように、腸マイクロバイオータの組成も長期的な食習慣によって変化します(7)。消化および代謝における役割を考えれば、腸マイクロバイオータに肥満や2型糖尿病などの代謝性疾患との関連性があることは驚くべきことではありません(7)。病状と関連性のある具体的なマーカーやプロファイルを特定する目的で、メタゲノミクスによる腸マイクロバイオームの特性評価が行われています(8)。たとえば、痩せた人と肥満の人を対象に行った調査では、肥満のグループの方がマイクロバイオームの種が多様であり、組成が変化していることが確認されました(9)。一方、糖尿病患者の腸マイクロバイオータのメタゲノムプロファイリングにより種に特異的な遺伝子多型バイオマーカーが同定されました(10-11)。

病状と関連性のある具体的なマーカーやプロファイルを特定する目的で、メタゲノミクスによる腸マイクロバイオームの特性評価が行われています。
 
炎症性腸疾患(IBD)におけるマイクロバイオータの役割の考察では、同様の手法により、IBD患者のマイクロバイオータにおけるゲノムおよびトランスクリプトームの組成と転写活性に重要な違いが発見されています(12)。最後に、マイクロバイオータにはHelicobacter pyloriやヒトパピローマウイルス(HPV)など、腫瘍を形成する微生物が含まれる可能性があります。このため、マイクロバイオータとがんの潜在的な関連性を調べるために、メタゲノム解析で大腸がん、乳がん、胃がんなどさまざまながんにおけるマイクロバイオーム組成の変化を特定する研究が進められています(13–15)。
徹底的な調査
ヒトバイオメディカルマイクロバイオーム研究に対するQIAGENの取り組みをご覧ください。
参考文献
  1. Wade, W. G. (2013) The oral microbiome in health and disease. Pharmacol. Res. 69(1), 137–143.
  2. Xu, P. and Gunsolley, J. (2014) Application of metagenomics in understanding oral health and disease. Virulence 5(3), 424–432.
  3. Belda-Ferre, P. et al. (2012) The oral metagenome in health and disease. ISME J. 6(1), 46–56.
  4. Xie, G. et al. (2010) Community and gene composition of a human dental plaque microbiota obtained by metagenomic sequencing. Mol. Oral Microbiol. 25(6), 391–405.
  5. Kholy, K. E. et al. (2015) Oral infections and cardiovascular disease. Trends Endocrinol. Metab. 26(6), 315–321.
  6. Koren, O. et al. (2011) Human oral, gut, and plaque microbiota in patients with atherosclerosis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 108(Suppl 1), 4592–4598.
  7. Arora, T. and Bäckhed, F. (2016) The gut microbiota and metabolic disease: current understanding and future perspectives. J. Intern. Med. 280(4), 339–349.
  8. Del Chierico, F. et al. (2018) Gut microbiota markers in obese adolescent and adult patients: age-dependant differential patterns. Front. Microbiol. 9, 1210.
  9. Castaner, O. et al. (2018) The gut microbiome profile in obesity: a systematic review. Int. J. Endocrinol. 2018, 4095789.
  10. Qin, J. et al. (2012) A metagenome-wide association study of gut microbiota in type 2 diabetes. Nature 490(7418), 55–60.
  11. Chen, Y. (2017) Gut metagenomes of type 2 diabetic patients have characteristic single-nucleotide polymorphism distribution in Bacteroides coprocola. Microbiome 5, 15.
  12. Schirmer, M. et al. (2018) Dynamics of metatranscription in the inflammatory bowel disease gut microbiome. Nat. Microbiol. 3(3), 337–346.
  13. Flemer, B. et al. (2017) Tumour-associated and non-tumour-associated microbiota in colorectal cancer. Gut 66(4), 633–643.Bhatt, A. P. et al. (2017) The role of the microbiome in cancer development and therapy. CA Cancer. J. Clin. 67(4), 326–344.
  14. Ferreira, R. M. et al. (2018) Gastric microbial community profiling reveals a dysbiotic cancer-associated microbiota. Gut 67(2), 226-236.